前回の記事でお話しした通り天然繊維は植物繊維と動物繊維に分けることができます。
そこで今回は動物繊維についてご紹介します。
植物繊維に劣らず、すごい秘密がたくさんあるのでご期待ください!
動物繊維とは
動物繊維とは動物の体毛や繭から得る繊維の事を言います。
動物繊維は私たち人間と同様にたんぱく質からできており、衣類害虫の大好物となり、虫食い被害に遭いやすい性質があります。
保管はしっかりと仕舞洗いをして適度な換気や正しく防虫剤を使うことが大事です。
また、動物繊維は大きく獣毛・繭繊維・その他の動物繊維のように分けられます。
今回この記事で取り上げるのは「獣毛」と「繭繊維」になります。
獣毛
「獣毛」は哺乳類の体毛から採られる動物繊維の総称です。
ですが実際は使用頻度の高い羊毛以外の動物の毛をまとめて獣毛と呼ぶことが多いです。
獣毛の繊維にはうろこ状になっているものがあり、それをスケールと呼びます。
人の髪の毛(キューティクル)と似た構造になっています。
これは植物繊維や化学繊維にはない獣毛独自の特徴で、このスケールは空気を含みやすく、保温性に優れています。
また吸放湿性にも優れているため、湿気を吸うことでスケールが開いて放湿し、水分が減るとスケールが閉じます。
この働きのおかげで動物繊維は最適な水分状態を保っています。
繭繊維
また「繭繊維」は字の通り、サナギを守る繭から採られる繊維です。
1本1本が細いので、数個の繭からほぐした糸を撚り合わせて1本の糸にしていきます。
その他の動物繊維
その他の動物繊維は羽毛やクモの糸が挙げられます。
羽毛は冬に活躍するダウン類の中身になります。
また、蜘蛛の糸は細く丈夫ではありますが収穫量が少ないため、蜘蛛の糸そのものではなく組成を参考に人工的にたんぱく質由来の素材が研究されています。
代表的な動物繊維
動物繊維の特徴を抑えたところで、次は代表的な動物繊維を見ていきましょう。
ウール(羊毛)
ウールは羊の毛で、獣毛の中では一番身近な素材と言っても過言ではないでしょう。
1頭の羊から約5㎏ものウールが取れるので、生産量が多いのも身近で手ごろな価格の一つの理由。
一般的なセーターやスーツ、ストールなどの編物の他、敷物などの毛織物に使われている。
羊毛繊維の特徴は、波状の縮れと表面が鱗状になっていることです。
この縮れが弾力性と保温性を発揮するので、セーターやマフラー等の防寒着に多用されるのです。
メリット
冬は暖かく夏は涼しい
もこもこの羊から採れる素材ということもあり、ニットやマフラーなど冬の定番アイテムを想像しがちですが、冬用アイテム以外にも使われています。
水(水蒸気)を吸って外に弾くという特徴から夏場は体から出る熱や水蒸気を洋服の外側に放出してくれます。
通気性が高くなるように織ることで夏にウール素材を身に着けても暑苦しくなることはありません。
逆に冬場は熱を外に出さないように作ることで暖かさを維持できます。
シワになりにくい
ウールにはしっかりとした弾力性、優れた記憶形状性がある事からシワができにくいです。
もしシワが発生した場合はポリエステルなど、他の繊維と混紡している可能性があります。
シワになりにくいため、アイロンがけの必要がほぼ無く、干した服が乾いたらそのまましまったり、着ることができます。
面倒なアイロンがけをしなくても、「シワができてみっともない」なんてことが無いのは嬉しいですね。
撥水性があり汚れにくい
完全撥水・完全防水とまではいきませんが、日常の中で可能性のある、雨・水滴・泥などの水溶性の汚れを弾いてくれます。
そのため他の素材と比べても汚れにくく、雨や雪が多い地域には助かる機能ですね。
また、抗菌・防臭効果にも優れているので臭いが気になる人にはおすすめの素材です。
デメリット
洗濯でダメージを受けやすい
ウールはデリケートで洗濯が難しい素材の一つです。
水の影響を受けやすく、洗い方や水温を間違えると縮みが起きる恐れがあります。
洗濯をする際は洗い方をしっかり確認しながら注意して行いましょう。
もしくは、家庭で無理に洗うのではなくプロのいるクリーニング店に任せるのも一つの方法です。
毛玉ができやすい
他の素材に比べると毛玉が発生しやすいのもウールのデメリットです。
動物繊維はうろこ状になっているという性質上、絡みやすく毛玉になりやすいのです。
ひどい時はフェルト化してしまう事もあるので、着用後はしっかりお手入れをして休ませてください。
フェルト化とは…
フェルト化は濡れたウールに強く揉む、擦る、押すなどの物理的な力をかけることが起こります。
スケールは水分を含むと開き、開いた状態で摩擦などの圧力を加えると開いたスケール同士が絡み合い離れなくなります。
この絡み合って離れない状態がフェルト化です。
フェルト化が起きる原因として代表的なのが、洗濯機での水洗いになります。
カシミヤ
カシミヤとは「カシミヤヤギ」から採れる獣毛繊維の山羊毛です。
一頭のカシミヤヤギから採れる毛は100~200gしかなく、ニットを作るのには4頭から5頭分の毛が必要になると言われています。
この収穫量は先ほどのウールに比べると5分の1程度で収穫量の少なさからもカシミヤ製品は高価になってしまうのです。
さらにカシミヤは品質の高さや生息数も関係して高値で取引されています。
カシミヤヤギは中国やモンゴル、ロシアをはじめアジアを中心とした国々の高地に生息しています。
他の種類のヤギと異なり夏と冬の気温差が激しい山岳地帯で、厳しい気候環境の中たくましく生きています。
夏は30度を超える猛暑で、冬はマイナス30℃を下回る極寒の環境なんだとか…。
一番多くカシミヤが採取されるのは中国のモンゴル自治区で、アルザス地方で採られるカシミヤは最高級品として取引され、質の高さや肌触りのすばらしさから「カシミヤの女王」とも呼ばれています。
メリット
肌触りの良さ
カシミヤと言えば滑らかで上質な肌触りが思い浮かぶ方も多いと思います。
繊維がとても細かく、しなやかなため、獣毛繊維によくあるチクチク感がありません。
これは繊維表面のスケールの突起が少ないので、凸凹のない表面になり皮膚への刺激が少ないのです。
さらに、カシミヤは天然の油脂分が表面をコーティングしているので、より一層滑らかな仕上がりになります。
滑らかで美しい光沢がある
カシミヤは先述の通りスケールの開きが少ないので、光の乱反射が起きにくく、光沢の強い繊維です。
表面がフラットなほど光がきれいに反射するので、他の獣毛繊維に比べても光沢が強い繊維になっています。
人間の髪の毛を想像するとわかりやすいですね。
髪の毛も普段はキューティクルに覆われていますが、ダメージが蓄積するとキューティクルが開くので光沢のないドライな髪に見えます。
しっかりとキューティクルが閉じていれば健康的で滑らかな髪の毛になります。
製品が軽い
空気の層が多いカシミヤはふっくらとした厚みがあるのにとても軽いという特徴があります。
これは厚みがあっても中に繊維が詰まっているわけではないためです。
冬物衣料は暖かさを重視する分重くなりがちですが、カシミヤで作られたものは軽いので肩などにずっしりとした重みが来ることはありません。
保温性に優れている
寒さが厳しい地で過ごすカシミヤヤギですが、その毛は寒さから身を守るため保温性に優れています。
繊維が細くクリンプ状(縮れ)で複雑に繊維同士が絡まることで、熱伝導率が低い空気を繊維内に多く閉じ込めることができます。
空気を多く取り込み、外に出さないのでとても暖かく保温性に優れているのです。
デメリット
毛羽立ちやすく、毛玉ができやすい
そもそもカシミヤは繊維が細く短い繊維なため、複数の繊維をより合わせて1本の糸を作り上げます。
摩擦などの影響によってこの撚り合わせた糸から繊維が飛び出すことで毛羽立ちの原因になります。
また飛び出た繊維同士が絡まることで毛玉もできてしまいます。
繊維の性質上改善が難しいので、なるべく摩擦やダメージを避けるように気を使うしかありません。
ブラッシングすることで表面の汚れやほこりを除去し、表面を整え、光沢をキープする効果があるので行うといいですね。
お手入れが大変
カシミヤは高品質で肌触りがいいですが、非常にデリケートでいい状態を保つのはとても難しいです。
きちんとお手入れをしていても長く着用すれば毛玉が発生し、水に弱いので濡れればすぐに拭き取る必要があります。
また、家庭で洗うことが難しい素材でもあるので定期的にクリーニングに出してケアしてもらうことをお勧めします。
絹
蚕蛾という蛾の幼虫が作る繭から採ることができる動物繊維になります。
直径約3㎝の繭1つから約1,500mの長い糸を作ることができるのです。
ただ1本1本は細いので複数の繊維を撚り合わせることで糸を作っています。
この糸の事を生糸と呼びます。
光沢があり高級感あふれる風合いの素材で、繊維断面が三角形のため光を当てるとプリズムのように光を反射し光沢が生まれます。
有名なシルクロードも、この絹から作られた織物を、中国から西方諸国に輸出するために作られたというので有名ですね。
メリット
肌に優しい
絹は人の肌に近い成分で構成されており、様々な繊維の中でも特に肌への刺激が少ないです。
敏感肌の人でも安心して使え、最近ではシルク製のインナーマスクが人気を集めています。
体の潤いを保つ性質も持ち合わせており、パジャマやナイトキャップによく使われています。
実際に使ってみて髪や肌の変化を感じている人も少なくないとか…。
静電気が起きにくい
天然繊維の中でも静電気の発生しにくいのが絹です。
静電気が起きにくいので、ほこりやダニ、花粉が付着しにくいです。
そのため生地表面を清潔に保つことができます。
光沢が美しい
特徴の点でも触れましたが、絹と言えばやはり美しい光沢感を思い浮かべるのではないでしょうか?
「光沢感=絹」というイメージが浸透しているので、他の物を表す時「まるで絹のような光沢感」なんて表現されるのを聞いたことがある人もいると思います。
それほどまでに代表的な絹のメリットです。
絹の光沢感や風合いの秘密
ほとんどの絹製品には光沢など独特な風合いがありますが、それは繊維内部の構造と精錬工程が深く関係しています。
絹繊維の断面は三角形をしており、その中心は絹の主体となるフィブロインがあります。
そして、その周りをセリシンというたんぱく質が覆っている構成です。
このフィブロインがプリズム状をしており、光を「屈折・反射」させることで光沢が生まれています。
しかも、光をそのまま反射するのは一部分だけで、「透過・屈折・二次反射」させることで独特で深みのある光沢になるのです。
また、このセリシンをどれだけ取り除くかによって仕上がりの風合いが変化します。
私たちが手にする絹製品は、繭糸や生糸に、石鹸やアルカリを用いることで繊維外側のセリシンを取り除いてあるのです。
※この状態の繊維を練糸と呼びます。
肌に優しい有効成分でもあるセリシンは、除去しすぎると有効成分が失われ肌に優しい特性が低減してしまいます。
一方、セリシンは残りすぎていると固く張りがあり、染色がしづらくシルク特有の柔らかな風合いが出ません。
つまり、私たちが普段使っている絹製品はセリシンの微妙な調整で、風合いを最良に整えられているすごい物なのです。
デメリット
黄変しやすい
絹は繭内のサナギを守るために作られているため、脅威である紫外線を吸収する力を持っています。
ただ注意が必要なのが紫外線をカットしてくれるのではなく、吸収するのです。
この性質により絹製品は紫外線を吸収しやすいので、日光にあたったり、時間の経過によって黄変しやすいのです。
水に弱い
水に濡れると縮みやすいのも絹のデメリットです。
この性質のため乾いても形が完璧に戻りません。
そのため殆どの絹製品は洗濯機を使用せず手洗いで優しく洗うことが推奨されています。
また、水分が部分的につくことで、シミのように残ってしまうこともあるので気を付けましょう。
まとめ
今回は動物繊維についてご紹介しました。
動物が身を守るための素材ということもあり、気温や日光など外の環境から体を守ってくれる効果があるものも多いのです。
一方、お手入れや洗濯は難しく、気づいたら虫食いにあっていたり、変色が起きているなんていう事態が発生しやすい素材でもあります。
そんな衣類トラブルを起こさないためにも、動物繊維の衣類はクリーニング店に持っていてお手入れ・洗濯してもらうと安心ですね。