皆さんはドライクリーニングって知っていますか?
言葉自体を聞いたことはあっても説明ができる人は、中々いないのではないでしょうか。
今回は家での洗濯とは全く別物な、ドライクリーニングの特徴や適した衣類などをご紹介していきたいと思います。
ドライクリーニングとは
ドライクリーニングとは、水ではなく油を原料にした特殊な溶剤(ドライクリーニング溶剤)を使うことで衣類へのダメージを抑えた洗い方です。
ドライの「乾燥する」という意味が転じて「湿っていない」、「水分が少ない」、「水分が無い」という意味に捉えることができます。
つまり、「ドライクリーニング」というのは「水を使わないクリーニング」と理解するとイメージしやすいと思います。
ドライクリーニングを行うのは、水で洗うと形崩れや縮み、色落ちなどが生じる衣類です。
例えば、カシミヤやウールなどは、水で洗うと形崩れしたり、縮んだりしてしまいますが、ドライクリーニングだと縮むことはほとんどありません。
クリーニング店は、生地や汚れに合わせて、ドライクリーニングで洗うべきかどうかを、判別しているのです。
さらに、店舗ごとに使用する溶剤も異なっているため、仕上がり具合に差が生じることもあります。
「油を使って洗っている」と聞くと、化石燃料への悪いイメージから「環境によくないもの」と思われがちですが、最近では環境に優しいドライクリーニング方法も浸透しつつあります。
ドライクリーニング溶剤ってどんな物?
クリーニング溶剤は「有機溶剤」とも言います。
主に石油や塩素を原料にした、溶質(溶けるもの)を溶かす液体です。
身近なものだとマニキュア落とし(除光液)が有機溶剤にあたります。
マニキュアって水では中々落ちないですけど、除光液を使うと爪に塗られた色が溶け出し液体と馴染んで最終的にはきれいに落ちますよね。
では、「水」では落ちない汚れがなぜ「油」では落ちるのかを解説していきます。
油の入ったコップに水を入れると分離してしまいます。
つまり「油」と「水」は相対する成分です。
「油」は「油」を好み「水」を嫌います。
逆に「水」は「水」を好み「油」を嫌います。
これは汚れを落すメカニズムでも同様で、「水」は油溶性の汚れを落としにくく水溶性のある汚れを落としやすいのに対し、「油=有機溶剤」は水溶性の汚れを落としにくく油溶性のある汚れを落としやすいのです。
ドライクリーニング溶剤の種類
皆さんは洋服についている洗濯表示にある「F」や「P」というマークが何を表しているか皆さんは知っていますか?
これはクリーニングで使う有機溶剤を指定しています。
「F」は石油系溶剤でドライクリーニング可能、「P」はパークロロエチレン及び石油系溶剤でドライクリーニング可能ということを示しています。
※ドライクリーニングの洗濯表示は昔は丸に「ドライ」という文字と波型のマークでしたが、平成28年に今のマークに変更になりました。
ドライクリーニング溶剤には3種類あり、溶剤によって特徴が変わります。
クリーニング店では汚れや素材などに合った溶剤を使い分けているんですね。
クリーニング店によって使用している溶剤が異なるため、もし気になる人はどのタイプの溶剤を使っているのかを確認してみるといいでしょう。
それでは、それぞれの溶剤の特徴と、洗える素材などについて見ていきましょう。
パークロロエチレン(テトラクロロエチレン)
パークロロエチレンは、テトラクロロエチレンやパークレンとも呼ばれます。
比重は1.63、不燃性の特徴を持ち、ドライクリーニング溶剤の中で油汚れを落とす効果が最も強力なのが特徴です。
クリーニングの時の「叩き」や「もみ」にも強く、短時間で洗浄・乾燥ができるので、汚れがひどくて目立つ衣類などにおすすめです。
反対に柔らかい風合いの素材や、スパンコールのついた衣類などには不向きです。
この溶剤のデメリットとして環境に優しくないというのがあり、米国環境保護庁によって健康被害・環境被害ともに指摘されました。
有害物質として指定を受けたことで、微量の排出も規制され扱いが難しい溶剤です。
このパークロロエチレンの有害物質指定をきっかけに、1990年代に米国環境保護庁によってドライクリーニングに用いられる化学物質が規制され、より安全で環境にも優しい溶剤の使用を奨励する動きが出始めました。
フッ素系溶剤
フッ素系溶剤は、比重が1.55で、パークロロエチレンの次に比重が高いため洗浄時間を短くすることができます。
不燃性で、表面張力が低いことから浸透性が高いので細部の洗浄が可能というのも特徴です。
油汚れを落とす効果は弱く、口紅や油性インクなどの汚れが付着したドライクリーニングには向きません。
さらに、ボタンや樹脂素材に損傷を与える場合があるため、ビーズや装飾ボタンのついた衣類には使われないことが多いです。
フッ素系洗浄剤は、その昔「フロン」と呼ばれ、引火性が無く人体に対する毒性が極めて少ない理想の溶剤として注目されましたが、1995年末に、オゾン層破壊の原因物質であるとして国際的に製造が禁止され、大気への排出規制対象となりました。
その後に出てきた代替フロン(HCFC-225)の製造も2019年末に終了しました。
石油系溶剤
石油系溶剤は、日本で最も普及している溶剤です。
比重が0.77~0.82と、3種類の中で一番小さく油汚れを落とす力も低いので、デリケートな素材の衣類に使われます。
また、洗浄時間や乾燥温度が低いのも特徴のひとつです。
おしゃれ着などの洗濯表示によく見られる「ドライ&セキユ系」マークは、石油系溶剤の事を指しています。
石油系溶剤が指定された衣類の中には、石油系溶剤以外の溶剤で洗っても問題ないものも多数あるようですが、一部の衣料メーカーの中には、他の溶剤で洗えるけれど一番優しい溶剤という理由から、「ドライ&セキユ系」マークを付けていることもあるみたいですね。
ドライクリーニングのメリット
ドライクリーニングを施すと衣類がパリッと仕上がります。
特にスーツの襟元などはラインが格好良く決まるため、「できる社会人」を演出するには最適です。
ドライクリーニングのメリットは大きく以下の2つです。
衣類の形が崩れにくい…
ご家庭の洗濯機で水洗いすると衣類の種類によっては、形が崩れて縮んでしまうことがあります。
例えば、カシミヤのニットなどの毛製品やレーヨンのシャツなどは、水洗いすると縮んでしまい、毛羽立ってしまいます。
ドライクリーニングは水を使わずに洗濯するので、縮んだり、形が崩れたり、色落ちしたりしやすい衣類も気兼ねなく洗濯できます。
油汚れに強い…
目で見てきれいでも油汚れは衣類に付着していることが多いです。
人間の体から出る皮脂汚れは勿論、排気ガス、大気の汚れから生じるススやホコリにも油は含まれているのです。
ドライクリーニングは、油汚れに強い効果を発揮します。
油染みのほか、油性ペンやボールペンのインク、口紅、ファンデーションなど、水洗いでは落とせない油性の汚れを落としてくれます。
工程の中で除菌ができる…
ドライクリーニングは洗浄工程が終わると必ず乾燥機で乾燥させます。
また、スーツなどはアイロン等機械でしっかり整形を行い仕上げます。
そこで注目して頂きたいのが、乾燥機とプレスによる温度です。
高温度で乾燥やプレスを行うので、菌やウイルスも一掃している可能性が非常に高く衛生的です。
なので一度でも袖を通した衣類は衣替えのタイミングなどで、必ずクリーニングに出し、ドライクリーニングを依頼しましょう。
そうすることで、衛生的な状態をキープする事ができます。
ドライクリーニングのデメリット
さて、ここまでドライクリーニングのメリットを上げてきましたが、もちろん良い事だけとはいきません…。
なので次はドライクリーニングにおけるデメリットを説明していきたいと思います。
水溶性の汚れは落ちづらい…
溶剤についての説明でもお話しした通り、ドライクリーニングは油で洗っているので、油汚れには強いですが、汗やしょうゆ、アルコールなどの水溶性の汚れにはあまり効果がありません。
例として、スーツはドライクリーニングすると皮脂などの油汚れは落ちますが、汗染みには効果を発揮できません。もし汗染みをきれいにするのであれば、汗抜き加工を行う必要があります。
※汗抜き加工については別の記事でお話しします。
環境への影響がある…
環境汚染の観点からドライクリーニングに使用している石油系溶剤は、捨てることができません。
これは法律で定められており、溶剤管理が義務付けられているためです。
クリーニング店は溶剤をフィルターで濾過することで汚れを取り除き、キレイな状態に戻してから繰り返し使用しています。
つまり、何か月も同じ溶剤を捨てずに何度も使い回しているというわけです。
当然、徹底した管理をしないと溶剤はすぐに汚くなってしまうため、クリーニング店は溶剤の品質管理には細心の注意を払っています。
もしドライクリーニングをした後、洋服から嫌な臭いがしたり、色移りが発生したり、汚れが落ちていなかったりするとドライクリーニング溶剤が汚れているのかもしれません。
これらは汚れたドライクリーニング溶剤が原因なのです…。
仮に、ドライクリーニングをしたばかりなのにスーツから嫌な臭いがした場合は、溶剤の管理が行き届いていない可能性があるので、店舗を変えるなどの対応を考えた方が良いかもしれません。
まとめ
ここまででドライクリーニングの特徴については理解していただけたと思います。
次回は、ドライクリーニングがおすすめな衣類の種類やご家庭で洗えるかなど実用的な内容をお届けしたいと思います。ぜひお楽しみに!