「背広を着用しようとしたところ、生地がプクプクと浮いているようなところがある…」
これって一体!?
突然表れた生地の異変、直すことはできるのでしょうか?
また、防ぐために気をつけることは?
その現象が起こる仕組みからお伝えしていきたいと思います。
その異変とは…
まずはこちらをご覧ください。
写真が問題の現象で、左前身頃の生地がプクプクと浮いてしまっています。
プクプク、ボコボコ…空気が入り気泡のような、波打つような感じという例えが分かりやすいかもしれません。
スーツやコートの前見頃あたりに多く見受けられますが、冠婚葬祭など大切な場面で着用する礼服や、お気に入りのスーツがこうなってしまったらとてもショックですよね。
こうなってしまった原因は?
この現象が起こるスーツなどには「ボンディング加工」という特殊な加工が施されています。
布と布を接着剤で貼り合わせる加工で、接着剤の「ボンド」が語源となっています。
bonding…bond(ボンド)+ing
ボンドで接着している
この接着剤が剥がれた部分の生地が浮いてしまうことであのプクプクとした気泡ができるのです。
この現象を「バブリング」と呼びますが、「浮き」と表現されることもあります。
bubbleing…bubble(波打ち)+ing
波打つような見た目から
現在、この接着剤の成分には主にポリウレタンが使用されています。
ポリウレタンは合成皮革やストレッチ素材、コーティング加工などに使われ、寿命は製造時より約3年。
着用してもしなくても時間の経過とともに経時劣化し、剥離、ベトつき、光沢消失、変色などが表れます。
バブリングという現象が起こってしまうのも接着剤の寿命によるものも大きいのです。
その寿命を迎えた衣類は、クリーニングや雨でずぶ濡れになってしまったことがきっかけで現れることもあり、そうしたトラブルは避けられない特性を持っているのです。
これって直るの?
初めて見たこの現象に、どうしていいか分からず半ば諦めも…クリーニング店に持ち込んだら直すことはできるのでしょうか。
結論、‘’元に戻す‘’ことは難しく、基本的には状態改善といった対処になることがほとんど。
その方法としては、仕上げの工程でバブリングの起きている箇所に熱を加えて再び接着させるというものです。
この処置ができれば改善の可能性があります。
しかし、熱の加え過ぎは気泡を増やしてしまうことになったり、テカリが出てしまうこともあるため、とても技術を要する作業です。
相談は信頼できるクリーニング店にしましょう。
また根本的に修繕するには、解体し芯地を張り替える作業が必要で、とても大掛かりになってしまうことからあまりおすすめできません。
日本の気候風土や生活環境による経年劣化
ポリウレタン樹脂による接着の経時劣化には、皮脂汚れや湿気などが大きく影響を与えています。
着用していなくても時間とともに劣化が進むポリウレタンですが、加えて日本の気候や生活環境が要因となり、更に劣化を加速させてしまうことも嘆かれています。
クリーニング業界から寄せられるボンディング加工製品の事故例も他国と比較すると日本が圧倒的に多いのだとか。
日本は‘’温帯モンスーン気候‘’で、夏は高気圧から吹き出す季節風で蒸し暑く、前線の影響を受けて雨が多いという特徴があります。
汗をかくことで皮脂汚れが付きやすくなり、梅雨や秋霖といった長雨の時期が多いことで衣類が湿気を帯びやすくなっています。
また、日本の生活環境からもボンディング製品の劣化を早める要因として考えられることがあり、冬場に欠かせない石油ストーブもそのひとつ。
燃焼過程で放出された水蒸気は湿気となり、クローゼットや押し入れなどの空気がこもりやすい閉鎖された部分に停滞します。
保管中の環境も寿命に関係してくるようですね。
日本固有の気候や環境は、他国に比べて劣化を早める要因として挙げられ何かと影響があるようです。
ボンディング加工の見分け方
ボンディング加工の衣類が増えていますが、接着について表示義務がないことから表記がなく、知らずに購入してしまうことも多いようです。
冬から春にかけて、薄地の素材やスプリングコートなどに使われていることが多く、生地にハリやコシが出て、とてもスッキリかっこよく着用することができます。
また、軽さや動きやすさなど、ファッション性や機能性の部分も魅力的。
ボンディング加工ならではの仕立てと言えます。
しかしその反面、お伝えしてきた「バブリング」というトラブルも付きもの。
ボンディング加工に特性(寿命)があることを理解した上での購入をおすすめします。
「なるべく長く着用したいからバブリングの可能性があるものは避けたい…」
そんな時に見分けるポイントがいくつかあります。
見分けポイント
・洗濯表示の〈お取り扱いご注意〉などに「ボンディング加工製品」「ボンディング素材」などと表記されている
※この表記がない場合もあり
・素材表示にポリウレタンと表記されている
・組成表示に「表地︰表 ポリエステル100% 裏 ポリエステル100%」や「表側生地〇〇 裏側生地〇〇(ウレタン樹脂で貼り合わせ)」などと表記されている
・手触りで確認する
スーツなどの前身頃を触った時に厚紙のような感触があることで判断します。
このような見分けポイントもありますが、購入の際に販売員さんに尋ねてみるのもいいかもしれません。
どんなものでもメリットとデメリットは背中合わせ!
承知の上でかっこよく仕立てられたものを着用したい✨️という方にはおすすめの製品であることも加えさせていただきます。
偶然撮れたこんな写真
こちらは弊社のネット宅配事業部がある場所の駐車場で撮影したものです。
降り積もった雪が溶けてきたころに出現!
これはどういった現象なのでしょうか。
この日記を執筆していることでそう見えてしまったのかもしれませんが、思わず…撮らずにはいられませんでした。
バブリングのように見えませんか…?
まとめ
ボンディング加工によってバブリングという現象が起きてしまうかもしれないことなど、知らなかった!という方が多いのではないでしょうか。
ご自宅で保管中、クリーニング後、そのタイミングは様々ですが、ボンディング加工のスーツやコートには製造から2〜3年という寿命があることを心得ておきましう。
また、皮脂や湿気に弱く、劣化を加速させてしまうことも…
お持ちの洋服にこのような現象が見られたら、着用を諦めてしまう前にクリーニング店に相談してみることで、状態を改善させることができるかもしれません。