女性であればスカートにあるプリーツ、男性であればスラックスのセンターラインと、折り目の入った衣類は立体的なデザインを表現するうえで欠かせないものです。
このピシッとした線が入っていることで、綺麗なシルエットを作ることができています。
しかし、この線は半永久的についているわけではありません。
着用を繰り返したり、水に濡れることによって段々と消えてきてしまいます。
折り目が消えてしまったふくは、締まりがなくだらしない印象を持たれてしまいます。
今回はどうして折り目は消えるのかから、クリーニングではどんな方法できれいな折り目をつけているのかをご紹介します。
折り目が消える理由
豪雨であったり、傘をさしていてもスーツが濡れてしまう事は多くあると思います。
また、自分が歩いたときの跳ね返りや、車が通ったことによる水しぶきなどでもスーツが濡れる原因になりますよね。
そんな時すぐに着替えて乾かすことができればいいですが、ほとんどが着替えることができない状態だと思います。
着続けて自然乾燥させるとピシッとしたプリーツが消えて、せっかくの服装がだらしなく見えてしまいます。
でも、プリーツはなぜ消えてしまったのでしょうか?
スーツの場合、ウールが使われていることが多いです。
ウールは素材の性質上もともと「水に弱い繊維」と言われています。
そのため、水である雨がウールの生地に染み込むことで、元々あったカタチ(プリーツの折り目)が一度リセットされてしまいます。
本来であれば乾く前に折り目をキープさせておき、その状態のまま完全に乾燥するのを待てば折り目は残っていたのですが、外出時にそのようなことはなかなかできないのが現実です。
そのためプリーツが消えてしまったのです。
また、座っている時であれば圧力・体温・汗によって自然とスチームをあてているような状態になります。
折り目が崩れたまま座ることで、そのまま折り目が記憶されてしまいプリーツが崩れたりシワになってしまうのです。
特に長時間座っているときや汗をかきやすい夏場は要注意です。
出来るだけプリーツを崩さないよう、折り目を腿に沿わせるようにして座ることを意識しましょう。
クリーニングに折り目加工を頼んだ方がいい理由
クリーニング店には折り目加工というものがありますが、「わざわざ頼む必要はあるのか」、「家庭でのアイロンがけじゃだめなの?」という疑問をお持ちの方も多いと思います。
実際、家庭でも衣類に折り目をつけることはできます。
しかし、失敗のリスクが高く、付けれたとしても折り目があまいなんてことが多いです。
当て布をしていたのに生地にテカリが出てしまったなんて人もいるようです…。
ここではクリーニング店に折り目加工を頼むメリットと自分で行うことのリスクについて、下記の表を基にお話しします。
クリーニング店に頼むメリット
自分でプレスする必要がない…
先ほどもお伝えした通り家庭でもプレスして、折り目を作ることはできます。
ですが、道具を用意して毎回アイロンがけするのは面倒ですよね…。
それに対してクリーニング店に任せれば、面倒なことは何一つしなくていいうえに、毎回きれいな仕上がりで衣類が返ってきます。
水に濡れても、折り目が消えない…
本来は水に濡れてそのまま着続けていると、折り目が消えてしまいます。
しかし、クリーニングでは特殊な加工法を用いて、折り目をつけているため、生地に折り目が記憶されています。
プロの知識と技術で施す加工なので、崩れにくい折り目ができるのです。
ウール素材でも加工可能…
ウールは水に弱く注意が必要なデリケートな素材です。
家庭でやるとなると、ただでさえ難易度の高いアイロンがけがさらに難しくなってしまいます。
ですが、クリーニング店であれば素材にあった加工法を施してくるので安心して任せることができますね。
自分で行う時のリスク
ラインが元の位置からずれる・二重のラインが入る…
自分でアイロンをかけた場合、正しく折ってしっかり押さえながらアイロンをかけたはずなのに、折り目が合っていないことがよくあります。
一度ついてしまった線を直すのはとても大変なので、最初からクリーニングに頼んだ方が安心ですね。
熱によって生地がテカる…
当て布をしっかりしてもいても、かけ方によってはテカリやアタリが起きてしまう事があります。
クリーニング店であれば、確かな技術と知識を持った職人が対応してくれるので、こんな衣類トラブルも防ぐことができますよ。
アタリとは…
アイロンの押し付けすぎが原因で厚みの差がある部分に跡が浮き出てしまう事です。
縫い代が原因でアタリが出ることが多いです。
アイロンを押し付けない、裏からアイロンをかける、縫い代の下に厚紙を挟むなどのアタリを出さない方法があります。
テカリとは…
アイロンの重みや着用によって繊維の丸みが潰され、繊維に面ができることで光を反射してテカってしまうことです。
これもアイロンがけの時にアイロンを押し付けないようにする、当て布をすることで対策することができます。
折り目加工の頻度
加工していないプリーツ(折り目)は自然に弱くなってきます。
衣服のプリーツ(折り目)は、主に3つの方法のうちのどれかによって行われていますが、プレス(熱)によるプリーツは日常生活の中でどうしてもあまくなります。
雨だけでなく、体から発する汗などの水分は勿論、椅子に座ることでプリーツがつぶされてしまったり、歩行によって生地が張ることで自然と弱くなるのです。
また、例外もありますが販売されているプリーツスカートやスラックスなどの折り目は、プレスによる処理である場合が多く、常に新品時の状態をキープするのは困難です。
一度クリーニングで加工を頼めば、着用頻度にもよりますが折り目はクリーニングに3回ほど出してももちます。
期間にすると大体ワンシーズンですね。
つまり年に4回折り目加工を施してもらえば面倒なプレスの問題を解決することができます。
加工をお願いする頻度としては、「明確にこのタイミング」や「ワンシーズンに〇回」のようなものはありません。
着用していてプリーツが弱くなってきた、消えかけていると感じた時点で依頼していいと思います。
素材や着用の頻度・仕方によってプリーツは長持ちするものとしない物があるので着用後などは要チェックですよ。
ただし、ピシッとさせたいがために頻繁に加工をお願いすると生地が傷む原因になるので、上手に保管してプリーツを長持ちさせましょう。
プリーツ(折り目)を長持ちさせるには…
長持ちさせるには着終わったらハンガーに正しく掛けるようにしましょう。
スーツのズボンであれば、折り目の部分で折り逆さまにして吊るします。
こうすることで重力で折り目に力が加わり翌日もくっきりと折り目が残っています。
もし雨などで濡れたときは、先ほど同様正しく折ってハンガーにかけ、自然乾燥させるようにしましょう。
衣類乾燥機など速乾出来る道具がある場合は使用して早めに乾かした方がいいですね。
乾燥と休ませる目的で、出来ることならスーツや学生服は連日同じものを着ないで複数の物をローテーションで着るのがおすすめです。
折り目加工の種類と方法
さてここからはクリーニング店がどのようにして、私たちの衣類に綺麗にプリーツ(折り目)をつけているのかをご説明します。
家庭では真似できないプロの技術が満載なのでぜひご覧ください。
プレス(熱)仕上げのみ~水素結合の利用~
おそらく皆さんに最もなじみのある方法がこのやり方で、家庭で行うアイロンを使った方法がこれにあたります。
自分でアイロンがけをしても折り目が甘くなる、クリーニング店のような仕上げができないという疑問をお持ちの方も多いようです。
それもそのはず、実はプレス仕上げは簡単なようで、とっても奥が深い仕組みの加工方法なのです。
崩れにくい折り目ができるのには、アイロンプレスの技術は勿論ですが、アイロンをかける前に与える水分量も影響していると考えられています。
水分や量が影響する理由を説明する前に繊維の構造の話から見ていきましょう。
水素結合とは
素材がウール(羊毛)や綿などの場合、その分子構造の一部では「酸素原子」と「水素原子」間で形成されるような「水素結合」という状態になっています。
この「水素結合」には大きな弱点があり、水中では結合が切断してしまいます。
言い換えれば「分子構造間でのつながりが切断すればフリーな状態になる」、「乾燥時には再び水素結合される」わけです。
つまり水分により分子がフリーな状態になるためにウール(羊毛)はわずかな力でも伸びやすい状態に変化しており、これがウール(羊毛)は水に弱いと言われる理由でもあり、洗濯シワの起きる理由でもあるのです。
しかしこの素材の弱点を逆手に取ることでプリーツ(折り目)を付けることができます。
意図的にわざとシワを付けるイメージですね。
方法は一度フリーな状態(=水素結合の解除)にして、アイロンの熱で水分を飛ばしつつ生成してくる水素結合を利用してプリーツ(折り目)を付けるという方法です。
適切な水分量
繊維には「公定水分率」という、温度20度、湿度65%の時の環境下で繊維が吸湿する水分量を公式に定めた値があります。
この公定水分率以上の水分を与えることで水素結合によるプリーツ(折り目)の効果を得ることになります。
ただし、プレスによりプリーツ(折り目)がしっかりついていても一たび雨などにより濡れてしまえば水素結合は切断される(プリーツが消滅する)ので注意が必要です。
シロセット加工~シスチン結合の利用~
シロセット加工とはCSIRO(豪州連邦科学産業研究機構)で開発された特許技術で、毛髪にパーマをかける原理を利用したウール製品の加工法になります。
主にウール製品が加工対象なので、ウールの混紡率が低くなるほど効果も低くなる特徴があります。
一方で合成繊維や綿・麻には加工を施せません。
ウールの風合を損なうことの無い自然な仕上がりで、シャープな折り目を形状記憶させることができる点やドライクリーニング処理・水洗い後の耐久性に優れているメリットもあります。
加工後は概ねワンシーズンほど効果が持続します。
加工方法としてはシロセット加工液(最初につけるパーマ液のようなもの)を生地に染み込ませ、水素結合とは異なる「シスチン結合」と言われる本来持つ強い結合を切断します。
この「シスチン結合」は水の影響を受けにくい点がポイントです。
シスチン結合を切断し、かつ適切な水分を与えた状態でプリーツ(折り目)を作り乾燥させます。
すると、プリーツのカタチを保持した水素結合以外に、もう一つシスチン結合も同様のカタチを保持した状態になります。
よって、仮に濡れてしまっても水素結合は切断されるが、シスチン結合はカタチを維持していることになるのです。
これが「シロセット加工」です。
リントラク加工
リントラク加工は、ザ・ウールマーク・カンパニー(I.W.S)が開発した、専用樹脂を生地の裏地に塗布する加工です。
毛・絹・綿などの天然繊維にオススメで他にも多くの素材に施すことができる加工となっています。
シロセット加工同様、ドライクリーニング処理・水洗い後の耐久性に優れており、加工の効果はワンシーズンほど持続します。
ほとんどの繊維・素材に使用できる加工法ですが、ベルベットなどの薄地のものやモヘアなどの繊維がかたいもの、目が粗い素材、伸び縮みする生地は樹脂が表に出てくるため加工できません。
ポリウレタンが含まれる製品にも施せないので、依頼する時は服のタグを要チェックです。
折り目加工の料金
次にクリーニングに折り目加工を頼むときの料金について見ていきましょう。
ズボンであれば500~1,000円が相場となっています。
スカートはズボンと同じくらいの料金の店舗もあれば、ヒダの本数によって料金が変動する店舗もあるようです。
「〇本~〇本だと●●円」のように、ヒダの本数によって規定の金額が決まっていたり、ヒダ1本に単価があり単価×ヒダ数で料金が決まるお店など様々でした。
店舗で依頼したとき料金が一見高く見えますが(特にスカートの場合)、自宅で手入れするための道具や労力を考えるとそこまで高い物ではないのかなと感じます。
まとめ
今回は衣類を引き立たせてくれる折り目加工についてお話ししました。
一口に折り目加工と言ってもこんなに種類があったのに驚かれた方も多いのではないでしょうか?
着用頻度が高い分スーツや学生服などは特にプリーツが崩れやすいので、これを機に加工を頼んでみるのもいいかもしれません。
その際は折り目加工を行っているか、どんな加工法で行っているかを確認してくださいね。